2013年7月13日土曜日

「鬼縁」について


 クラシックでも邦楽の古典でも、既に亡くなった作曲家の作品を演奏することが多いのですが、現代曲の場合は作曲家に細かい点を聞きながら演奏できることもあり、それぞれ違う難しさや面白さがあります。  
 今回は生誕140年の泉鏡花と、現在活躍中の京極夏彦さんの二作品を取り上げます。「天守物語」は発表されてから96年、「鬼縁」は発表されてから約7ヶ月の作品です。  
 昨年末の"泉鏡花ナイト"では、泉鏡花の「天守物語」「龍潭譚」「外科室」という三作品を取り上げました。今後もしばらく泉鏡花作品に限定することも考えましたが、是非今生きている小説家と何か一緒にしたいという思いがありました。そこには、文学と演劇、音楽に携わる者達が影響し合ってより面白いものをつくること、例えば泉鏡花と喜多村緑郎(母方の遠縁にあたります)、三島由紀夫周辺、山下洋輔さんと筒井康隆さん等々の関係性への憧れも影響しています。  
 原作者と作品を一緒に読むことが出来るということも、実はなかなかないことだと思います。私個人で考えると、谷川俊太郎さん、佐々木幹郎さんをはじめ、詩人による朗読と演奏をする、詩に曲をつけるという機会はありますが、小説は初めてです。  
 怪奇幻想文学のアンソロジストとして名高い東雅夫さんとは"泉鏡花ナイト"をご覧頂いた時、初めてお会いしました。それを機に、東さんが編集長を務める『幽』を拝読しました。そこに載っていた「鬼縁」に私は引き込まれました。共感と言ってもいい感覚でした。一読して、自分の朗読幻奏のスタイルにもぴったりだと思いました。世界を異にした2人の主人公によって語られるパラレル進行、しかも一ページ毎という点も特徴的で興味を引かれました。都会的で乾いた調子の現代パートと江戸時代の重厚さの対比も他にないコントラストです。  
 その後、談シリーズの現在出ているものは全て読みました。その上で、今の私にとって一番音楽と合わせてみたいのは「鬼縁」でした。
                                 石井千鶴

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